自閉症 心理学理論と最近の研究成果 

自閉症について心理学的研究を中心として生物学的研究や社会モデル、ニューロダイバーシティについても
解説した書籍。

特に英国の研究を中心に紹介しており、ここ10年話題になっている「モノトロピー理論」や「ダブルエンパシー(二重共感問題)」についても解説されている。これらの新しい理論は当事者(かつ研究者)が深く関わっている。
このあたり、これまで日本語ではあまり読めなかった(と思う)。

各章には自閉症の人々の批判的な発言が記載されていることも、素晴らしい。
著者や訳者も記載されているように、これはハッペの1994年の著作の改訂版であるが、読み進めていくとこの30年間変化したこと、変化しなかったことを実感する。


もとは大学院生向けの入門書という位置付けらしいが、内容は結構高度で、時には難解な部分もある。
ウタ・フリス先生や筆者が敬愛するミルトン先生も推薦の言葉を書かれている。

最近の心理学的理論を日本語でまとめて読める書籍は(多分)なかったので、日本語で読めることは有難いし、これだけの内容を翻訳してくださった訳者の方々には感謝したい。

訳書については
特定の用語については旧字体を使っておられる。筆者は複雑な漢字は苦手なので、ページを開くと、慣れない旧字体が視覚に飛び込んできて、ちょっと混乱したりもした。訳者の意図はわかるので、それはそれでOKなんだろうと思う。
それはおいても、翻訳については率直にいって、読みやすいとは言い難い。誤訳というわけでないし、正確に訳そうとされたのは理解できるのだが、時々、意味がわからず原著にあたって理解できた部分があった(原著をみてもよくわからない部分もあった。英語もそれほど読みやすくはない部分があるように感じる)。

少し例をあげれば、→のようにしたほうがわかりやすいのではないだろうか?
ミルトン先生の二重共感問題の部分では
「この理論は、対人相互交流がうまく成立するには、二人の人間の参加を必要とすることを、誤りでないかと思うほど単純に指摘する」(p245)は
二人以下は「二人の人間の参加を必要とするという一見当然のことに注目する」
「もとの情報をそのまま書き写したもの」→「もとの(ビデオ)クリップの書き起こし」(p246)
「以前には自閉症と知的障碍の重なりが実際に存在していたが」→「以前は自閉症と知的障害の合併が非常に多くみられたが」(P248)
モノトロピー理論の部分では
自閉症の危機の経験あるいは「溶融」に関する貴重な洞察が得られる(p219)
→「溶融」の訳語では一般の人にはわからないのではないだろうか?もとは”meltdown”で学術用語ではなく一種の俗語かも
しれないが、臨床場面ではしばしば出てくる用語で、いわゆる「かんしゃく」とか「問題行動」のことだろう。
フリーズするほうを”shutdown”、外的に荒れる行動をmeltdownといって区別する人もいるようだ。ちなみに原発とはなんの関係もない。
その下の「手短に言えば、真に破局的」も「短時間でも、真に破局的」という意味だろう。

細かいことが気になってしまったが、最近の自閉症の心理学的理論が要領よくまとめられていることと、当事者の視点からの記載がされていることなど、自閉症理解のために非常に優れた書籍であることは間違いないので、お勧めです。

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