下記は20230519_第15回日本不安症学会学術大会での特別講演の抄録です。
本講演では神経発達症、特に自閉スペクトラム症についての不安について検討する。
神経発達症では不安症とうつ病の合併率が高いことは多くのエビデンスがある。その理由としては遺伝環境相互作用が生じていることが想定される。神経発達症の家族歴研究では気分障害や不安症などの精神疾患の家族歴をもつものが多いことが知られている(Ghirardi et al. 2021)。
自閉スペクトラム症やADHDの子どもや成人にとって、多数派を想定して作られた社会に適応することの心理的負担は大きい。青年期や成人期の神経発達症のアセスメントや支援を検討する際には適応への困難は幼児期から継続して続いていることを考慮する必要がある。特に自閉スペクトラム症の場合、強い不安が幼児期から始まっていることが想定される。
自閉スペクトラム症と不安は児童精神医学においては古くから大きなテーマである。1980年発行の小児自閉症評価尺度は主に知的障害を伴う自閉症の子どもを対象にアセスメントを行うツールであり15の領域にわけてアセスメントを実施するが、コミュニケーションや対人交流などの中核症状にくわえて”anxiety reaction”がその一つに選ばれている(Schopler et al. 1980)。子どもの不安を示す行動には泣く、大声をあげる、隠れたり逃げる、くすくす笑うなどが例示されている。
自閉スペクトラム症の不安や恐怖は、親も含む他者との身体接触や音などの感覚刺激でも生じるし、雨とか人形、粘土など一般の子どもが不安や恐怖を感じない場面でも頻繁に生じる。予定や物の位置の変更への不安のように自閉症特性が関与していることも多い。 不安は生活の質に強い影響を与え自傷や他害、触法行為、ひきこもりにつながることもある。
不安の対処方法として反復行動や同一性への固執が生じることも多い。自閉症の中核症状の一つである「限定された興味関心」や「反復行動」「対人関心の乏しさ」なども不安の表現と捉えることも可能である。
このように自閉スペクトラム症と不安の関係は複雑である。
支援・治療としては幼児期からの自閉症特性に配慮した環境設定を行うことが推奨される。青年期・成人期に診断された事例についても合理的配慮の提供による環境設定を行う。